「平凡な日常がどれだけ幸せか、わからせてやった方が良かったんじゃないか?」

 猫又は紅茶を飲み、霧矢を睨んだ。

「あいつら人間はそれがわからないからすぐに不満を溜めて、他のものに当たるんだ」

「まあまあ。猫又さんは手厳しい」

 霧矢は新しく入荷した古着を仕分けていた。

「なにもあんなつらい思いをしてまで、わかる必要はありませんよ。今後いくらでも気づくきっかけはあるはずです」

「まあな」

 猫又は紅茶を飲み干し、スコーンにクロケットクリームをつけ、口に放り込んだ。

「ごちそうさま。じゃあ」

 律儀に挨拶をし、猫又は店を去っていった。

「猫又さん、これからどうするんですかね?」

 食器を片付けつつ、仔狗は霧矢に問う。

 復讐を遂げてしまって、猫又には目標がなくなってしまった。