「だからその古着に彼への怨念を染みこませ、じっと復讐の時を待っていた。元の持ち主は、猫又さんの元の飼い主のひとりです」

 そこからどう流れて古衣堂に置かれたのか、美波にはわからない。

「一日あなたと一緒にいて、あなたの体と同化した。そして今、あなたの体の力を借り、復讐を成し遂げたわけです」

「人間の体を借りないと、猫又さん自身は彼を傷つけられないから」

「そういうことです。幽霊と同じで、鈍感な人間は見えないし感じないので」

 一生懸命理解しようとする美波の頭は、もうパンク寸前だった。

「あんたが止めなければ、とどめを刺してやったのに」

「いやだなあ猫又さん、憎い人間をそう簡単に楽にさせてやっちゃいけませんよ」

 霧矢は顔から笑みを消し、男を冷たく見下ろした。

「闇の中で、怖い怖い夢を見て、もがいて苦しんで、ずっと生き地獄を味わってもらうんですよ」