霧矢は続ける。
「古衣堂は、死にきれない彷徨える魂が立ち寄る場所なのです」
美波はごくりと唾を飲み込んだ。
「そしてあそこにある古着は、様々な思いを残したあやかしが宿っている」
「あやかし……妖怪みたいなもの?」
「ざっくり言えば、そうです」
では、目の前にいる二足歩行の猫は、あやかしなのか。彼女はじっと猫又を見つめた。
「なに見てんだよ」
かわいらしいモフモフな見た目とはかなりギャップがある言動だ。
オスなのかメスなのかもわからないそれにぎろりとにらまれ、美波は小さくなった。
「猫又さんは彼に虐待された猫の魂が集まってできたあやかしです」
「えっ……」
美波は足元で完全に伸びている男を見下ろす。
「しかし猫又さんはまだ生まれて間もないため、現世……こちらの世界の人間に手出しできるほどの力がない」
男が幼い頃から猫を虐待していたとして、せいぜい生まれて三、四十年ほどだろうか。
それでも美波よりは歳をとっているが、あやかしとしては赤子同然とみなされる部類らしい。