「──ッシャアアアアッ!」

 人間とは思えない威嚇の唸り声が美波の喉から噴き出した。

「ギャアアアアッ」

 男の目に激痛が走る。あまりの痛みに、彼はもう目を開けられなくなっていた。不潔な手が顔を覆うと、指の間から血液が流れ出た。

 獣のような咆哮を上げて床を転げ回る男の横に、軽快な動作で立ち上がった美波が近寄る。

 その手の爪は異常に伸び、赤黒い血を滴らせていた。

 そう、彼女の鋭く硬い爪が、男の顔面を容赦なく引っ掻いたのだ。

 美波は目の前の光景を、呆然と見ていた。彼女の体は何かに乗っ取られ、突き動かされている。

「お前のような屑は、この世から消えてなくなればいい」

 彼女に乗り移った何かは、恐ろしい声で男を罵る。

「覚えているか? お前はこの近所で、たくさん猫を殺したな」

「ひ、ひいい……」

「野良猫も飼い猫も。捕まえて足を折り、尻尾を切り、髭を焼き、耳の皮を剥がし」