(その通りになった)
まったく同じ光景が、繰り返されている。
(今度こそ、逃げなきゃ。逃げろ、逃げろっ)
それまで無抵抗だった美波は、手足に力を入れた。男の肩を押し返し、膝で腹を蹴った。勇気を振り絞って出した、渾身の力で。
「うえっ」
呻いた男が怯んだすきに、美波は分厚い体の下から逃げ出そうとするが。
「この野郎っ」
男が拳を振り上げ、美波の顔を目がけて下ろそうとした。
ギュッと目を瞑ろうとした彼女の頭に、何者かの声が大きく響く。
「目を瞑るな! 私が力を貸してやる!」
美波の目が見開かれた。
その輝きが男の動きをピタリと止めた。
彼女の目は、闇夜の中で金色に光っていた。
黒い瞳孔は、まるで爪で引っ掻いたように細い。
三角形の耳が頭上に飛び出し、背中では二股に別れた緒が泳いでいた。