女子トイレであるはずの場所から、ぬっと太い腕が伸びてきて、美波の細腕を捕らえた。

 彼女の腕を掴んだのは、中年の男性だった。黒っぽい服が闇と同化している。

 抗えないほど強い力で女子トイレの中に連れ込まれる。バッグが肩から落ちた。あまりに突然で、悲鳴をあげることすらできなかった。

 壁に背中を押し付けられ、Tシャツを腹からめくられる。ぞっと鳥肌が立つ全身を、男の不躾な手がまさぐる。

 抵抗しなければ。でも、したら殺されるかもしれない。

 そう考えた美波が動けないのをいいことに、男の手が美波のデニムに指を引っかけ、脱がせようとする。

「なんだよ、こんなピッチリしたズボン履いてんじゃねえよ。スカートなら簡単なのによ」

 まったく自己中心的な苦情を美波にぶつけ、男は力任せにデニムを下に下ろそうとする。

 しかしデニムはまるで美波の皮膚になったようで、足から離れようとしない。