駅までの道は明るく、同じようにアルバイトや仕事を終えた人間が数人いるので、さほど物騒ではない。問題はそのあと。

 二十分ほど普通電車にゆらゆら揺られ、美波は何度も眠りそうになった。

 カクンと首が落ちる度、降りるべき駅を通り越してないか、慌てて確認する。

 無事にアパートの最寄り駅で降りたのは、美波ひとりだった。早足で錆が浮いた階段を降りる。

 無人駅を一歩離れると、寂れた街は闇の中に沈む。ぽつんぽつんと、申し訳程度の街灯があるだけだ。

 ここから走って帰るのが美波の日常だ。そのために、彼女はいつもスニーカーを履いている。

 しかし今日は違った。

「すみません……」

 頼りなくか細い声が、美波の歩みを妨げたのだ。

 声は駅の真ん前にある公衆トイレから聞こえた。美波が女子トイレの横を通りすぎる瞬間、その声は聞こえたのだ。

 彼女はなんとなく歩みを止めて振り返った。病人が助けを求めているのかもしれないとか、考えている暇もなかった。