彼女は前の席の学生も見た。彼らも沙希と同じように、何の違和感もなく講義を聞いているようだった。

(じゃあ、このノートはいったい……)

 夢を見ている間に書いたとでもいうのか? そんなはずはない。これまでの人生で一度も授業中に居眠りをしたことがないのが美波の自慢だ。

 不思議に思いつつも、復習だと思って講義を聞くことにした。

 今日の美波には朝から変わったことがたくさんある。

 見たことがないデニムがクローゼットに存在していたり、未来の自分が書いたようなノートの文字に気づいたり。

(うーん、わかんない)

 いくら考えても、自分で買ったり書いたりした記憶に辿り着けない。

 美波は諦め、不思議なことについてはあまり考えないように決めた。