大学近くの物件は家賃が高いため、美波は少し離れた街に住んでいる。
街とはいえ、学生が遊ぶような場所はどこにもない。生活には支障ないが、とにかくさびれた街だ。
今日も『不審者に注意!』と書かれた看板がかけられている無人駅から電車に乗り、大学に向かった。
「おはよう。あれ、ズボン珍しいね」
講義がある教室に入ると、友人の沙希が声をかけてきた。
彼女の隣に座った美波は、「そうだね」と返した。
「あれ……今日、火曜日だよね?」
美波はバッグからテキストを出しながら沙希に尋ねる。
「そうだよ。どうしたの? ボケた?」
「うん、そうかも」
たしかにカレンダーで日付と曜日を確認し、今日の講義をつつがなく受けられるように準備をしたはずだ。なのに、何かが引っかかっていた。
ほどなくして教授が入室し、講義が始まった。
美波は自分のノートを開き、固まった。