彼女の狭苦しいキッチンにコーヒーは置いていない。冷蔵庫の中のミネラルウォーターを飲み、着替えをするためクローゼットを開けた。
親からの仕送りが少ないためか、美波のクローゼットは年頃の女性にしてはすっきりとしている。
オシャレには興味があるし、バイト代で新しい服を買うこともある。それもそう高くないもので、着回しがきくようなアイテムばかりだ。
「たまには冒険したいなあ。着たことないような綺麗な服で、高いヒールを履いて」
ぶつぶつ嘆きながら、変わり映えのしないアイテムを適当に手に取った。
「あれ……こんなのあったっけ」
美波が掴んだのは、細いデニムパンツだった。
いつもはふんわりとして体の線が出ないロングスカートやフレアスカートが好きな美波にしては、珍しいボトムスだ。
すでに夢のことを忘却の彼方に追いやってしまった美波は、どうしてもそのデニムパンツをどこで手に入れたかを思い出すことができない。