美波は階段を踏み外すような感覚に襲われ、唐突に目を開いた。

「……え、あれ……?」

 彼女はきょろきょろと周囲を確認する。

 いつもと同じ、ひとり暮らしのワンルームアパートだ。

 大学生である美波は、親元を離れ、ひとり暮らしをしている。

 目を覚ました彼女は、ベッドの中にパジャマで横たわっていた。枕元で携帯のアラームが鳴っている。

 のっそり起きてアラームを止め、ごしごしと目をこすった。

(夢だったのか。リアルすぎてわからなかった……)

 彼女は古衣堂という怪しい店に入り、デニムを試着したままコーヒーを飲むという、よくわからない記憶を思い出す。

 が、次の瞬間には店主らしき男の顔も、ガマの穂似の尾を持った少年の姿も、まるで霞がかかったように鮮明には思い出せなくなっていた。

「変な夢」

 携帯を見ると、朝の七時を示していた。

 大学の講義があるため、美波は買い置きの菓子パンで簡単に朝食を済ませた。