美波はふと歩みを止め、周りを見渡した。

「あれ……?」

 右を見ても左を見ても、小さな店が隙間なく連なっている。

 色とりどりのネオンサインや電工看板が夜の街を明るく照らし、頭上にはいくつもの丸い提灯がぶら下がっている。

 ぶらぶら揺れるオレンジの光を見上げ、美波は首を傾げた。

(え、っと……?)

 ここがどこか、どうやってここに来たのか、彼女は思い出すことができなかった。

 自分の名前とか、どこの大学に通っているとか、そういうことは覚えている。

 しかし、今朝起きてから何をしていて、この場所に辿り着いたのか。

 今日は何月何日なのか。

 などといったことが、綺麗さっぱり頭の中から抜け落ちてしまっていた。

「困った」

 くるりと後ろを振り向くも、帰り道さえもわからない。

(そうだ、GPS機能を使おう)

 思いついてバッグを探ろうとするが、いつも持っているはずのバッグもない。

 おまけに、なぜか全身が痛い。

 美波の胸に、急激に恐怖感が押し寄せた。