うれしくもない。

 楽しくもない。

 だけど、あたしはとびっきりの笑顔を組み立てた。

 じっくりコトコト煮込んでる暇なんかないから強火で丸焦げだし、盛りつけなんか涙でグシャグシャだけど、あたしのとびきりの笑顔を見せなくちゃ。

「なあ、かさね」

 うん。

「最後に、一番大事なことを伝えさせてくれよ」

 うん。

 見上げると、つぶれた鼻の康輔があたしを見つめていた。

 康輔だ。

 あたしの知ってる康輔が微笑みを浮かべていた。

 やっと、本当に、戻ってきてくれたんだね。

 そっか……。

 だから、戻っていってしまうんだね。

「かさね」

「うん」

「俺の、気持ちだ」

 頬と頬がふれあう。

 涙より君の笑顔がせつない。

 康輔といた証を。

 康輔の優しさを受け止めるために。

 あたしはそっと目を閉じた。