そんなはずないじゃん。

 あたし、生きてるよ。

 だから、苦しかったんだもん。

 だから、つらかったんだもん。

 だから、さびしかったんだもん。

 だから、うれしかったんだもん。

 康輔に会えて、うれしかったんだもん。

 ほらね、あたし、生きてるでしょ。

「あの事故の時、俺もおまえも両方巻きこまれて、おまえが死んだんだよ。かばってやれなくてごめんな」

 康輔の言葉は冷たいナイフのようにあたしを貫いた。

 まるで意味が分からない。

 アタシハイキテイル。

 シンダノハオマエダ。

 康輔の言葉が頭の中に大きく映し出され、その画像に針で刺したような穴が無数に空いていく。

 ブツブツボツボツザクザクグサグサと空いた穴から粉が舞い落ち、支えきれなくなってドサリと崩れ落ちる。

 その土煙の中で、あたしは康輔を見失いそうだった。

 そうか、そういうことだったのか。

 あたしが無傷だったのって……。

 死んだからだったの?

 まためまいにおそわれる。

 とっさにあたしは康輔の腕にすがりついた。

 康輔の手があたしの手に重なる。

 大丈夫だと、ぬくもりが語りかけてくる。

「あの時、あの瞬間、世界は二つに割れたんだ。俺の世界とおまえの世界。俺達は二人一緒にいることができなくなったのさ」

 あたしの世界から消えてしまった。

 だから、康輔はいなくなっちゃったんだ。

「そもそも、おまえだって、おかしいと思ってたんだろ。人が死ぬのはともかく、消えてしまうなんてこと、ありえないじゃんか」

 この二ヶ月のおかしな出来事は全て死後の世界のせいだったということなの?

 あたしが死んじゃってたから、まわりがどんどんゆがんでいっていたの?

 ミホの記憶から康輔が溶け出していったみたいに。

 鷹宮先輩が定期券をなくさなかったことになっているみたいに。

 少しずつ、少しずつ、あたしがたどろうとした分だけ、康輔の痕跡が消えていってしまったのは、そういうことだったのか。

 世界をゆがませていたのはあたし自身だったんだね。

 あたしはまた、その真実を素直に受け止めていた。

 苦い薬でもなく、引っかかる魚の骨でもなく、甘い蜜のようにあたしはそれを飲み込んでいた。