あの日くだけた世界のかけらを集めても

「コースケはあたしの身代わりになって……」

 やっぱりその先は聞けなかった。

 死んだんだよね。

 あたしを助けて、康輔が犠牲になったんだよね。

 だからあたしは無傷だったんだよね。

 康輔のおかげであたしは助かったんだよね。

 言いたいこと、聞きたいことがあふれ出す。

 なのに、声にならない。

「俺さ、おまえが好きだったよ」

 うん。

 ありがとう。

 それは突然の告白だった。

 でも、それはもう三年前から分かっていたことだった。

 そして、真実を知ってしまったからこそ、聞きたくなかった言葉だ。

 おまえが好きだった。

 過去形なんだよね。

 康輔は死んでしまったんだもんね。

 コウスケハシンデシマッタンダモンネ。

「コースケ、死んじゃったんだよね」

 頭の中で何度も繰り返しているうちに、いつの間にかそれは言葉となって口に出ていた。

「違うぜ」

 え?

 違う?

 康輔はあらためてはっきりとした口調であたしに告げた。

「違うよ。そうじゃない」

 じゃあ、死んでないの?

 生きてるの?

 戻ってきてくれたの?

 ……そう、なの?

 考えないようにしていたことが間違いだと分かって、頬が引きつって声にならない。

 自分でも笑顔だか泣き顔だかも分からないけど、うれしさで全身が震え出す。

 今までどこにいたかとか、なんで消えていたのかとか、そんなことはもうどうでもいい。

 康輔が戻ってきてくれたんだから、それでいい。

 よかった。

 また一緒にいられるんだね。

「違うよ」

 康輔がため息をつく。

「違うよ。死んだのはおまえの方だよ」

 時が止まる。

 ざわめいていた木々も、飛び交っていた鳥たちも、傾いて姿が消えそうな夕日も、ハサミでチョキンと切り取って写真を貼り付けたみたいに、世界が固まってしまっていた。