ねぐらへ向かう鳥たちの鳴き声がこだまする境内に、冷たい風が吹き抜けていく。

 小鳥たちの影が落ち葉のように地面を転がっていく。

 あたしは指で涙をぬぐいながら康輔にたずねた。

「コースケは今までどこにいたの?」

「ずっとここにいたぜ」

「でも、会えなかったじゃない」

 あたしは慎重に言葉を選んでいた。

「コースケはあの事故でケガしなかったの?」

 こんな質問に意味がないことは分かっていた。

 顔も変わって、寒さすら感じないのだ。

 死んでしまった人に、『怪我はなかった?』なんて、なんの意味もない。

 康輔は康輔だけど、もう康輔じゃない。

 胸の前で腕を組んで、叫び出しそうになる気持ちをおさえこみながら、あたしは康輔の返事を待った。

「あの時か」と康輔がぽつりとつぶやく。「車が突っ込んでくるのを見て、俺はとっさにおまえを助けようとしたんだよ」

 うん、それは覚えてる。

 でも、あたし、なんか勘違いして突き飛ばそうとしてたよね。

 ごめんね、康輔。

「ごめんね、コースケ」

 あたしは言葉を口にしていた。

 伝えたいことが自然と声になっていた。

「なんだよ、急に」

「あたし、抱きつかれるのかと思ってびっくりしちゃって、あの時、突き飛ばそうとしたでしょ」

「そうだっけか」と、康輔は頭をかきながら照れ笑いを浮かべた。「中学の時にも、同じようなことがあったよな」

 水たまりで立ち止まったときのことだ。

「あのとき、おまえにさ、『好きな女の子に抱きついてラッキーとか思ったでしょ』って言われたじゃん」

 あたしは小さくうなずいた。

「思ってたよ」

 え?

「言えなかったけどな」

 イケメン顔の康輔があたしを見つめている。

 あたしはまた何も言えなくなってしまった。

「ごめんな。本当はめちゃくちゃラッキーだと思ってたけど、こわくて言えなかったよ」

 そっか、『ラッキー』の方か。

 あの時さ、と康輔が言葉を継いだ。

「本当の気持ちを伝えたときに、おまえが笑顔じゃなかったらって、こわくなっちまったんだよ。だから、ごまかしちまったんだ」

 ごめんな、というつぶやきがあたしの耳をくすぐる。

 あたしも康輔を見つめ返した。

「おかしなもんだよな。おまえを守るためならとっさに自分を投げ出すことだってできたのに、自分の気持ちを伝えることをずっとこわがっててさ」

 そうだったんだ。

 お互い臆病だったんだよね。

 ぎゅっと目をつむったまま手探りで、そこにあるのは分かっているのに触れることのできない答えを確かめる勇気なんてなかったんだもんね。