それからあたしたちは本殿前の階段に腰掛けた。

 薄暗くなり始めた境内に風が吹き抜ける。

 くしゅん。

 くしゃみで一瞬目を閉じた。

 ふわりと肩に何かがかぶさる。

 目を開けるとワイシャツ姿のイケメン康輔があたしを見つめていた。

 上着を貸してくれたんだ。

 なんでそんなに優しくするのよ。

 そんなに優しくされたらさ……。

 あたしはその先の言葉を慌てて飲み込んだ。

 苦い薬のように喉に引っかかる。

 咳払いをしながらあたしは康輔にもたれかかった。

「康輔が風邪引いちゃうじゃん」

「俺は寒くないんだよ」

 そっか……。

 やっぱり……そうなんだ。

 そういうことなんだ。

 康輔は康輔じゃないんだ。

 康輔じゃない康輔なんだ。

 康輔だということがはっきりすればするほど、それはなおさら康輔が死んでしまったという事実の重みを増していくばかりだった。

 上着から伝わる康輔のぬくもりがせつない。

 泣いちゃだめだ。

 うれしいんでしょ。

 康輔に会えてうれしいんでしょ。

 あたしを素直にさせてくれる康輔が目の前にいる。

 だったら、ちゃんと笑顔を見せなくちゃ。

 笑顔を……。

 見せるんだ。

 とびきり素敵な笑顔をプレゼントするんだ。

「ありがとうね、コースケ」

「今度はずいぶん素直だな」

 笑顔が素敵なのは康輔の方だった。

 だめだ。

 涙を止められない。

「なによ、らしくないって?」

 冬の夕暮れが、急ぎ足で光を奪っていこうとする。

 ねえ、待って。

 お願いだから、もう少し。

 ほんの少しだけ、あと少しだけ。

 お願いですから、康輔と一緒にいさせてください。 

 涙を見せたくなくて、あたしは康輔の肩に頬を押しつけた。