「ずいぶんお祈りしてるんだな」

 すぐそばで康輔の声が聞こえる。

 はっきりと聞こえる。

 大丈夫。

 そばにいてくれる。

 もういなくなったりしないんだ。

 あたしは笑顔を作りながら目を開けた。

「うん、うれしかったから、たくさんお礼を言ってた」

 康輔の顔に照れ笑いが浮かんだ。

 イケメンなのは違和感だらけだけど、照れると猫背になるのが康輔っぽくていい。

「なあ、あのときもさ、俺たちこうやってお参りしたじゃん」

『あのとき』というのは、あの事故の日のことだろうか。

「うん。そうだね」

「あのとき、俺たち、おんなじことをお願いしてたんだろ。だからこうして願いがかなったんだよ」

「ニキビって言ってたくせに」

「治っただろ」

 おでこに手をやると、つるつるになっていた。

 あ、ほんとだ。

 でも、二ヶ月もたってたら、消えてるのが当たり前か。

 思わず笑ってしまった。

「おまえ、かわいいよな」

 はあ?

 何よ、急に。

「かさねさ、おまえ、笑うとかわいいよ」

「笑わないとかわいくないの?」

「ちげえよ」と、康輔が空を見上げる。「そういうわけじゃねえよ。あいかわらず素直じゃねえな」

 ごめんね、康輔。

 素直じゃないよね、あたし。

 うつむきかけたあたしの頭にポンと康輔が手を置いた。

「おまえらしくて、いいけどな」

 うん、ありがとう。

 康輔の優しさを受け取るときだけ、あたしは素直になれる。

 おだやかな沈黙があたしたちの間をつなげていた。

 言葉がなくてもちゃんと通じ合えたんだよね。

 あのときのお願いか。

 ずいぶん昔のことみたいに思えるね。

 あの日願ったことは、まだ覚えているよ。

『本当の気持ちを伝えても、今のこの楽しい時間が消えてなくなりませんように』

 あたしはそう祈ったんだった。

 願いはかなったと言えるんだろうか。

 楽しい時間は消えちゃったよね。

 そもそも本当の気持ちを伝えることすらできなかったんだし。

 何一つかなってませんよ。

 康輔が消えてしまうことすら知らなかったから、また会えますようになんて願わなかったんだし。

 なんだか文句ばかりでバチ当たりですね。

 すみません。