あの日くだけた世界のかけらを集めても

「『グッバイ』でいいか」と康輔がつぶやく。

 グッバイ。

 ……サヨナラ。

 なんで。

 どうして?

 全然良くないよ。

 なんでそんな言葉を選ぶのよ。

「ねえ、それは何文字?」

「『グッ・バ・イ』で三文字だと短いか」

 うん。

 だからだめだよ。

 あたしは思いついた言葉を言った。

「じゃあ、『ファミレス』でいいじゃん」

「『ファ・ミ・レ・ス』で四文字」と、指折り数えた康輔が顔を上げる。「って『グ』じゃねえし」

「『フラペチーノ』は?」

「ムリ。難しすぎる。……だからよ、『フ』じゃなくて『グ』だっつうの」

 と、ジャンケンの歩幅に関係なく康輔があたしに歩み寄ってきた。

「なんだよ。どうして泣いてるんだよ」

 え?

 あたし?

 いつのまにか涙がにじみ出していたらしい。

「だって。コースケなんだもん。この世で一番コースケすぎるコースケなんだもん」

「意味わかんねえし」

 そうつぶやきながら康輔があたしの肩を押した。

「ま、いいさ。おまえの勝ちだよ」

 そしてそのまま本殿まで連れてきてくれた。

 二人並んで本殿前に立つ。

「ねえ、お参りしようよ」

「おう。何をお願いするんだ?」

 何がいいかな。

「お願いじゃなくて、お礼は?」

「何の?」

「コースケに会えたこと。会いたかったんだ。願いがかなったからね、そのお礼」

 そうか、と康輔が手を合わせる。

 あたしも隣で目を閉じて手を合わせた。

 今まで会えなかったのに、急にどうしたんだろう。

 狛犬様が作り直されたからかな。

 神様がお使いとしてあたしのところに会いに来させてくれたのかな。

(ありがとうございました)

 ふと、不安になる。

 竹藪の葉が一斉に風になびくように、心がざわつく。

 目を開けたとき、康輔はまたいなくなっているんじゃないだろうか。

 そう思ってしまうと、目を開けることができなくなる。

 あたしはお祈りをしているふりをして、震えそうな心と体を押さえ込むのに必死だった。