みんなからは仲が良くてうらやましいなって言われる。

 うん。

 自分でも分かってる。

 あたしは康輔の優しさに甘えている。

 そういう自覚はある。

 あたしのわがままを受け止めてくれるのが康輔だけだってことも分かってる。

 だから怖いんだ。

 今の居心地の良さが失われてしまうことを、あたしは想像したくないんだ。

 だから、康輔に甘えれば甘えるほど強気になっちゃうし、康輔に感謝する気持ちを口にすることができなくなってしまうのだ。

 言葉にしたら壊れてしまう。

 素直な気持ちを伝えて、べつにそんなんじゃないし、なんて言われたら、もう、この居心地の良い場所にいられなくなってしまうでしょ。

 だからあたしはいつも喉まで出かかった気持ちを抑え込んでしまうのだ。

 居心地の良い高校で、居心地の良い康輔の隣で、変わらない毎日を過ごしていたい。

 変わらないでほしい。

 今のままがいいんだ。

 答えを知ってさびしい思いをしたくないもん。

 今日も康輔をからかって、しょうがねえなっておでこをコツンってしてもらうんだ。

 そうやってふざけあっていられれば、それでいいんだ。

 勝手すぎるな、あたし。

 そういうズルさも自覚している。

 でも、こわい。

 康輔のことを本気で考えようとすると、いつも心の奥が震え出す。

 車窓の景色が流れて笹倉城の丘が見えてきた。

 あたし達の高校の校舎が朝日に照らされている。

 少し汚れたガラスに康輔の顔が映っている。

 なんで笑顔なのよ。

 視線に気づかれないようにあたしは前髪をかき分けた。

「デコ広いな」と康輔が笑う。

「よけいなお世話よ」

「ニキビできてるぞ」

 マジ?

 調理実習で作ったお菓子の試食、調子に乗りすぎたかな。

 速度を落としながら電車がゆるくカーブして、窓が白く輝く。

 あたしはまぶしい光の中に康輔の笑顔を探していた。