あれ?

 康輔は?

 スマホの画面には狛犬が映るだけだ。

 目の前にいるはずの男子生徒の顔はどこにもない。

 いくら画面をずらしても、縦にしても横にしても、狛犬しか映らない。

 しかも、あたしは参道の左側を向いているはずなのに、イケメン顔の狛犬ではない。

 フレンチブルドッグみたいに鼻のつぶれた右側の狛犬そっくりの顔が映っているのだ。

 人間の顔はイケメンなのに、スマホの画面にはブサイク顔の狛犬が表示される。

 アプリで九十九%そっくりと表示されて康輔が文句を言っていたあの狛犬だ。

 スマホをどけると、そこにはやっぱりイケメン男子が微笑んでいる。

 もう一度スマホをかざすと狛犬になる。

 心臓がトクンと跳ねた。

 そうか。

 康輔なんだ。

 やっぱり康輔なんだ。

 どうしても埋まらなかった最後のピースがカチリとはまる。

 その瞬間、あたしは逆に納得してしまったのだ。

 スマホの画面に映らない、この男子生徒が康輔だということを。

 それはつまり、この世の存在ではないということだ。

 その事実を、あたしはすんなりと受け入れてしまったのだ。

 苦い薬をゼリーに混ぜて飲みこんでしまうように。

 なんの抵抗もなく、ごくりと一息に飲み込んでしまったのだ。

 できあがったパズルは受け入れがたい真実をさらけだしていた。

 なのにあたしは、それに疑問を感じることがなかった。

 そうだね。

 康輔なんだ。

 やっぱり康輔なんだね。

 康輔の死をあたしに伝えに来たのは康輔自身なのだった。