「あの、ごめんなさい」

 あたしは頭を下げた。

 顔を上げたとき、思わず言葉がこぼれ出た。

「誰かは知りませんけど、どうしてコースケのことを知っているのか分かりませんけど、あんまりじゃないですか」

 淡い夕日に照らされた相手の表情がこわばる。

「あたしだってつらいんですよ。どういうつもりなのか知りませんけど、そんなにからかっておもしろいですか」

 こんな相手に言っても仕方がないのに、もう言葉が止まらない。

「あたしだってね、たしかにコースケに会いたいんですよ。ずっとずっと会いたいって願ってましたよ。でも、誰もコースケのことを覚えていないし、あたしが探そうとすればするほど、どんどんコースケに関係のあったことが消えていっちゃったんですよ。だからもう、いいんです。あきらめます。忘れたいんですから、思い出させないでくださいよ。あなたは一体誰なんですか!」

 語気を強めてしまって、後悔する。

「ごめんなさい」

 もう一度頭を下げて、この場を立ち去ろうとしたとき、相手があたしの腕をつかんだ。

「なあ、かさね。おまえ、どうして怒ってるんだ?」

 はあ?

 まだ絡む気ですか?

 振りほどこうとしても、がっちり捕まれていて逃げられない。

「なあ、どうして俺だって分からないんだよ。俺だよ、康輔だよ。もしかして、俺のことが見えないのか?」

 見えないって、あたしの腕までつかんでるくせに、見えないわけないじゃん。

 ていうか、めちゃくちゃ迷惑なんですけど。

 ……でも……。

 もしかして……。

「コースケ……なの?」

 相手が力をゆるめた隙に腕を離す。

 でも、あたしはその場から逃げる気にはならなかった。

 あたしが名前を呼んだからか、相手が笑みを浮かべていた。

 全然違う顔なのに、あたしはその笑顔に懐かしさを感じていた。

「コースケ……なの?」

 見知らぬ男子生徒はうなずいた。

「だから、さっきからそう言ってるじゃんよ」

「でも、どうしてそんな顔してるの?」

「顔?」と、相手は首をかしげた。「顔がどうかしたのか? ブサイクなのはいまさらだろ」

 ブサイクじゃないよ。

 イケメンだよ。

 もしかして、分かってないの?

 自分の顔だから見えないってこと?

 写真に撮って見せてあげるよ。

 あたしはスマホを取り出して相手に向けた。