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あれ、康輔……じゃない。
え?
……誰?
背丈は康輔と同じくらいだけど、背筋がぴしっと伸びてすらりとした体型だ。
なにより、顔が全然違う。
二重まぶたで鼻筋の通った彫りの深い顔。
斜光に照らされたせいで髪も明るい栗色に輝いていて、ハーフタレントみたいだ。
なんだ……。
やっぱり、そうだよね。
どこから見ても康輔じゃない。
期待からの落差が激しすぎて、全身の力が抜けてしまう。
どなたですか?
ていうか、なんであたしのことを『かさね』なんて呼ぶの?
「かさね」
間違いない。
あたしのことを見て、あたしの名前を呼んでいる。
「あの、ごめんなさい。誰ですか?」
男子生徒は自信満々に微笑みを浮かべながら自分を指さした。
「なんだよ、俺だよ、俺」
詐欺の人だ。
「俺だよ、康輔だよ」
オレダヨコウスケダヨ。
日本語に聞こえない。
オレダヨコウスケダヨ。
頭の中で同じ言葉がぐるぐると渦を巻いて、底なしのらせん階段にあたしを引きずり込んでいく。
「俺だよ、康輔だよ」
何よ、この人。
どうしてこんなイタズラするの。
あたしをからかって何が楽しいの。
怒りというよりも、悲しみしかわいてこない。
でも、涙も出てこない。
なんだかとても虚しい気持ちに包まれる。
「なあ、かさね。俺だよ、康輔だよ」
うん、分かったよ。
もういいよ。
からかってるなら、やめてくださいよ。
「なあ、俺だってば」
目の前にいる人はあたしのことをじっと見つめながら同じ言葉を繰り返している。
俺だよ、俺。
康輔だよ。
必死さだけは伝わるけど、からかわれてうれしいわけがない。
あたしの心の中に刺さっていたトゲがうずく。