ミホが顔の前で手を合わせて息を吹きかけている。

「寒いね」

 あたしは両手でミホの手を包んだ。

「人間手袋だぞ」

「うほ、あったけえ……って、かさねの手、冷たいじゃん」

「ほんとだ、ミホの方があたたかいや」

「耳にしてみてよ」

 ミホの耳は真っ赤だ。

 触れたら痛そうだった。

 ヒヨコを包むようにミホの頭を両手ではさむ。

 耳に当てた手から冷たさがじんじんと伝わってくる。

「こっちはあったかくていいね。人間耳当て、なかなかいいよ。あたしもやるね」

 ミホもあたしの頭を両手ではさむ。

 たしかにあたたかい。

 しばらくの間、二人向かい合ってお互いを温め合う。

 でも、じっとしているから、足下が冷えてくる。

 震えているミホの顔がだんだんニヤけはじめる。

「これって、キスの距離だよね」

 コレッテキスノキョリダヨネ。

 両耳を手で塞がれているせいか、宇宙人の声みたいだ。

 ミホがミホでないみたいだ。

「する?」

 はあ?

「うん」なんて返事をしてみる。

「いやいや、悪ノリしすぎじゃん。意外と大胆だよね、かさねって」

 ミホから誘ったくせに。

「その日まで、大事にとっておこうか」

 顔を赤くしながら言われると、あたしまで照れくさくなる。

 視線をそらすようにうなずく。

 あたしにはその日が来るのかは分からないのだ。

 ミホが手を離して一歩下がる。

「なんかヤバイ気持ちになりそうだから、帰ろうよ」

「そうだね」

 二人並んで鳥居を出る。

 ケークェーとまた鳥が鳴いた。

 ……かさね……。

 なんだか呼ばれたような気がして振り向く。

 境内には誰もいない。

 狛犬様が並んでこっちを見ているだけだ。

 空耳かな。

 でも、なんだか気になる。

 とても懐かしい声だったような気がする。

「じゃあ、またね」

 ミホが手を振っていた。

 あたしもあわてて手を振り返す。

「あ、うん」

「どうかした?」

「ううん、なんでもない。また明日ね」

 ミホと別れて竹藪の坂道を下る。

 静かな坂道にあたしの足音だけが響く。

 一人で歩くことにはもう慣れた。

 ただね。

 さびしさだけはまだなんだ。