ミホが二人に聞き返す。

「メグもサキも誰が決めたか知ってるの?」

「うちはお母さん」と、メグ。

 サキが自分を指さす。

「うちはね、お父さんの方のおじいちゃんおばあちゃんだって」

 へえ、そうなんだとミホがうなずいている。

 昇降口に着いたところで、メグがあたしの方を向いた。

「かさねは?」

「はえ?」

 上履きに履き替えているときに急に話を振られたものだから、間の抜けた返事をしてしまった。

「なによ、名付け親がハエだったらやばいじゃん」と、メグが笑いだす。

「ああ、ええとね、うちはおばあちゃん。なんか松尾芭蕉がどうとか言ってた」

 へえ、そうなんだとみんながうなずいている。

 サキが腕を組みながら首をかしげた。

「『奥の細道』だっけ、松尾芭蕉って」

「うん、そう。旅の途中で馬を借りたときに、そこの農家の女の子がナデシコの花みたいにかわいかったんだって。その子の名前が『かさね』なんだって言ってたよ」

「へえ、松尾芭蕉公認かよ。なんかすごいね。急に由緒正しいお姫様みたいに見えてきた」

 予鈴が鳴ってしまった。

「おっと、ヤバイ。一限から実習じゃん」とメグがパチンと手をたたく。

「そうだ、そうだ。おしゃべりしてる場合じゃないし」とサキがミホとあたしの背中を押した。

 いったん教室に鞄を置いて、調理室に急がなければならない。

 歩き出したところでメグが立ち止まる。

「で、結局、ロミオはなんでロミオなの?」

「知るかよ。あとでググれ」と、ミホがメグの両肩をつかんでくるりと回す。

 メグをおいてあたしたちは駆け出した。

「もう、待ってよ。ロミホ!」

「混ざってるよ!」とミホが吹き出す。

「かっこいいじゃん。ロミホ! ロミホ!」

 メグとサキが調子に乗ってはやしたてる。

 ミホが腰に手を当ててあたしたちの前に立ちはだかった。

「ようし、おまえら全員、そこに並べ!」

 え、あたしも?

「デコピンだ!」

 ていっ!

 ていっ!

 ていっ!

 三人連続でナイスヒット。

「これでみんなおそろだね」とミホを指さしながらサキが笑う。

「マジで? 私のたんこぶ目立つ?」

「さっきより赤いような気がするけど、そこまでじゃないよ」と教えてあげる。

「デコッパチのミホも素敵だし」とメグが片目をつむって茶化す。

 手招きしながらサキが駆け出した。

「ていうか、ヤバイよ。実習遅れちゃうって。準備間に合わないと減点だよ」

 サキの背中をあたしたちも追いかけた。