「あ、元に戻ってるじゃん」

 先に声を上げたのはミホの方だった。

 土日に一気に工事をしたんだろうか。

 あたしたちは自然と境内に足を踏み入れていた。

 それほど広くない境内だけど、凜とした静けさを感じる。

 鳥居をくぐっただけなのにずいぶん雰囲気が違う。

 ちゃんと修理できて良かったですね。

 心の中であたしは勾玉神社の神様に頭を下げた。

「ねえ、かさね。見て、この狛犬、イケメンじゃない?」

「あ、なんか洋風だね」

 事故で壊れたのは左側の狛犬だけだ。

 元からある右側の狛犬は鼻のつぶれた獅子舞みたいな顔つきだけど、新しくなった左側はなぜかキツネのような顔つきをしていた。

「シェルティみたいだよね」とミホが狛犬様のお顔をなでている。

「シェルティって何?」

「シェットランドシープドッグっていう、イギリスかなんかの犬」

 説明しながらミホがスマホを取り出して画像検索してくれた。

「ほら、これ」

 ああ、確かに洋風なおしゃれさんだ。

 細長い顔に鼻筋が通っていて知性がにじみ出た表情だ。

「コーギーっていう足の短い犬も顔が似てるね」

「そうだね。それもイケメンさんだ」

 ミホがフレンチブルドッグみたいで愛嬌のある右側の狛犬と比べながら首をかしげた。

「なんで左右そろえなかったんだろうね」

「だよね。なんかちぐはぐだよね。狛犬にも流行りの形とかがあるのかな」

「在庫がこれしかなかったとか」と、ミホがバチ当たりなことを言う。

「余り物とか言ったら狛犬様に怒られるよ」

「うわあ、すみませんでした。ちょーイケメンで素敵ですよ」

 あわてて頭を下げたミホが狛犬様の台座におでこをぶつけてしまった。

「いったぁ!」と頭を押さえながらミホがふらつく。

「大丈夫?」

「さっそくバチが当たったよ」と涙目になりながらもケラケラ笑っている。「イケメンってほめたのにな」

「気持ちがこもってないのがお見通しだったとか」

「神様の守り神だから、それくらいばれちゃうか」と、一歩下がって距離感を確かめてからもう一度ミホが頭を下げた。「本当に失礼なことを言って済みませんでした。オンリーワンの素敵な狛犬様だと思っています」

「犬だけに?」と思わずツッコミを入れてしまった。

 起き直ったミホがぽかんとした表情であたしを見ている。

「あ、ほら、オンリーワンッ!」

 みるみるミホが赤くなる。

「ち、ちが……、ちょ、やめてよ。ていうか、それ、私じゃなくてかさねのダジャレだからね」

 ミホが顔を手であおぎながら背中を向ける。

「あたしじゃないよ。ミホが言ったんじゃん。ワンワンッ! オンリーワンッ!」

 ワンワンッ!

 急に血の気が引くような感覚に襲われる。

 狛犬様に向かって吠えていた康輔のことを思い出す。

 顔のマッチング判定で狛犬そっくりと出たときのことだ。

 康輔……。