中一の時に康輔に後ろから抱きつかれたことを思い出す。

 あのときは前にいたあたしが立ち止まって、康輔が後ろからぶつかってきたんだった。

 鼻血まで出してたんだから、相当痛かったんだろうな。

 ごめんね。

 ……康輔。

「かさね?」

 いつの間にか信号が変わっていた。

 ミホが横断歩道の真ん中で振り向いていた。

 あたしは白いラインだけを踏みながらミホを追いかけた。

「ほんと、ごめんね」

「べつにそんなマジに受け取らなくっていいって」

 今度はミホが後ろに回ってあたしの両肩をつかんだ。

「運転手交替。次は坂道です」

「あ、楽かも」

 友達に背中を預けながら坂を上る。

 ミホは優しい。

 どんなときでもミホはあたしを受け止めてくれる。

 あたしは相変わらず甘えている。

 何も変わらない。

 康輔がいないこと以外は……。

 坂の上から顔をのぞかせる冬の朝日がまぶしい。

 十二月に入って急に日差しが低くなってきた。

 暗いはずの竹藪全体が黄色い斜光に染まっている。

「かさね、まぶしいでしょ」

 あたしがうなずくと、ミホが後ろで笑う。

「でしょ。私の方はね、ちょうどかさねの頭が影になってくれて助かるんだ」

 しまった利用されていたか。

「こっちはめっちゃまぶしいんですけど」

 じゃあ、とミホがあたしの両目を手でふさいできた。

「これでどうよ」

 肩を押す代わりに背中に頭をつけて押してくる。

 確かにまぶしくはないけど、何も見えなくてこわい。

 足下は滑りやすいし、どこで曲がればいいのかも分からない。

 と、思った瞬間、ズルッと足が滑った。

「ちょ、危ないし、こわいよ」

「緊急停止。キキーッ」と、ブレーキの音まで再現しながらミホが手をどけてくれた。

 目を開けるとそこは勾玉神社の前だった。

 先週末までと風景が違う。

 ブルーシートが撤去されていて、懐かしい風景にもどっていた。

 白い石造りの立派な鳥居が立っていて、その奥に狛犬が左右に並んでいる。