急に背筋がゾクッとする。

 あたしが手がかりを探そうとすればするほど康輔は消えていってしまう。

 四Bの鉛筆で一度描きあげた絵を消しゴムで全部消していくように康輔の痕跡が消えていく。

 でも、なんであたしの中からは消えないの?

 字を消した紙にもう一度鉛筆をこすりつけると隠れていた筆跡が浮かび上がるように、あたしの心の中には康輔の痕跡が刻まれている。

 書いて、消して、なぞって、消して。

 あたしの描く康輔の絵はいつまでも完成しない。

 ただ消しゴムだけが黒くなる。

『お前の手も真っ黒じゃんか』

 あたしは震える手をじっと見つめる。

 笑ってくれるはずの康輔はどこにもいない。

 上り方面の電車が来る。

 ホームに下りて、一人電車に乗り込む。

 空席だらけだったけど、あたしはドアのところに立って外を眺めていた。

 すっかり暗くなった車窓には自分の顔が映っている。

 ニキビできてないかな。

 おでこを出してみても、汚れた窓に映る姿はぼんやりしていてよく分からない。

 直接手で触れてみれば、そこにまだあるのは分かる。

 決してなくなったわけじゃない。

 ちゃんとした鏡なら見えるはずだ。

 汚れた窓に映るのは、ぼやけた表情だけだ。

 幽霊みたいだな、あたし。

 印旛沼もオランダ風車も闇の中に沈んでいる。

 夏の花火大会のことを思い出す。

 康輔はいつも男子の友達と出かけちゃって、手振れのひどい写真ばかり送ってきてたよね。

 しかも、男子連中と撮った変顔の写真。

 どうせなら花火の写真にしてよって思ったものだけど、あの写真も、今はもうない。

 康輔のことはすべてスマホの中に入っていた。

 写真も連絡先も、メッセージも。

 逆なのかな。

 スマホが壊れちゃったから康輔もいなくなったのかな。

 そんなことはないよね。

 あたしの記憶の中にはちゃんといてくれるんだから。

 心の中ではいつでも話すことができるのに。