重い足取りを引きずりながら街灯と自動車のヘッドライトに彩られた駅前までやってくると、コンビニから出てきた人に目がとまった。

 神社で別れた鷹宮先輩だ。

 何か買い物でもしていたのか、思いがけずまた会えた。

 気持ちを奮い立たせて、階段を上がっていく先輩の背中を追いかける。

 先輩ともう一回康輔の話がしたい。

 もう一度定期券の話をすれば、また康輔のことを感じられる。

 康輔の優しさを確かめられる。

 改札口の手前で定期券を取り出すために先輩が立ち止まった。

「先輩! 鷹宮先輩!」

 ようやく追いついた。

 振り向いた先輩の視線があたしの後ろの階段の方を向いている。

 あれ?

 先輩?

 あたしですけど。

「あの、西谷です……けど」

 びっくりしたように肩をピクリとさせて定期券を握り直しながら先輩があたしと視線を合わせた。

「えっと……、私に、何か?」

 明らかに困惑した表情であたしを見ている。

 なんか変だ。

「あの、すみません。さっきの話、もう少し聞かせてくれませんか」

「さっきの話?」

「定期券の話です」

「定期券?」と先輩が手の中にある定期券に目をやった。「これがどうかしたんですか?」

 なんかおかしい。

「ええと、私のですよね。名前、間違いないし」と券面を確認してからあたしに差し出してくる。

 そうじゃなくて。

「あの、定期券を落としたときの話です」

「落とした? あなたが? 探してるの?」

 あたし?

 違いますよ。

 どういうこと?

 何が起きているの?

 さっき、話をしたじゃないですか。

 康輔のこと。

 下手くそな字の手紙が入っていたこと。

 先輩が決定的な宣告を下した。

「ええと、ごめんなさい。ちょっと話が飲み込めなくて。人違いとかじゃない?」

 そんな……。

 ついさっき話したばかりなのに、どういうことなの?

 また康輔がいなくなってしまった。

 下り方面の電車が到着するというアナウンスが流れる。

「あの、行ってもいい? ごめんなさいね」

「いえ、すみませんでした」

 あたしはその場に立ち尽くして先輩を見送るしかなかった。

 やっぱりそうなんだ。

 康輔を探そうとすればするほど康輔が消えていく。

 さっきまで康輔のことを知っていたはずの人から記憶が消されてしまう。

 あたしが康輔を探そうとすればするほど康輔がいなくなる。

 ミホも名前を忘れてしまったみたいだし、鷹宮先輩も康輔のことを知らなかったことになっている。

 もう誰にも康輔のことを聞いてはいけないんだ。