かたわらのミホがあたしの肩に手を置く。

「よかったね」

 うん。

「今の、探してる人のことなんでしょ」

 うん。

「拾った物を届けるって、優しいんだね、ええと……」と、ミホが鼻の頭をかきながら首をかしげた。「普通科の人なんだね」

 うん。

 いつの間にか日も落ちて薄暗くなってきていた。

「帰ろうか」

「うん、そうだね」

 神社を出たところでミホと別れる。

「今日はいろいろありがとう。じゃあね、また明日」

「かさね」

 ん?

 何?

「たいへんだろうけど、頑張ってね。困ったときはちゃんと相談してよ」

「うん、ありがとう」

 ミホと別れてあたしは薄暗い坂道を下って笹倉駅に向かった。

 足取りが軽い。

 康輔のことを知っている人がいた。

 あたしだけじゃなかったんだ。

 弾む気持ちが抑えられない。

 でも、滑らないように気をつけなくちゃ。

 コケて泥だらけになったら最悪だ。

 大きな声で叫びたい。

 康輔はね、親切なんですよ。

 あたしにジャージを貸してくれたんです。

 康輔はね、優しいんですよ。

 転んで泥だらけになったあたしのことをね、かばってくれて……。

 足が止まる。

 あたしのことをかばって……。

 ……代わりに車にはねられたんだよね。

 康輔はね。

 あたしのことを大事にしてくれたんだよね。

 なのに……。

 どうしてあたしの前から消えてしまったの?

 暗い竹藪に囲まれた坂道であたりを見回してみる。

 康輔はいない。

 いつも一緒に歩いていた康輔はやっぱりいない。

 竹藪がざわめく。

 吹き抜けていく風に促されるようにまた歩き出す。

 康輔はね、優しいんですよ。

 でも、いなくなっちゃったんですよ。

 あたしだけを残して。

 ふと、さっきのミホの表情を思い出す。

 あの変な間は何だったんだろう。

 康輔の名前を忘れてしまったような言い方だった。

 あたし以外の人の記憶からは康輔の影はどんどん薄れていってしまうんだろうか。

 その一方で、鷹宮先輩みたいに、直接知っているわけでなくても、痕跡を覚えている人がいる。

 どういうことなんだろう。

 あたしが考えたところで何も分からないけど、何かが気になる。

 康輔をさがそうとしてはいけない、と誰かがささやいているみたいだ。

 どうしてなの?

 どうしていけないの?

 問いかけたところで、暗い竹藪がさわさわと音を立てるだけで誰も答えてはくれないし、かんじんの答えはどこにも落ちていない。