でも、先輩には伝わったようだ。

「ああ、下駄箱に入れてくれたのは他の人なの? 西谷さんは調理科だもんね。普通科の人?」

 察しのいい人で助かる。

「あ、はい、そうなんです」

「そっか。そうなのかなと思ったのよ。男の子でしょ」

「八重樫康輔っていう男子です」

 ああ、やっぱりと先輩がパチンと手をたたく。

「定期のカードと一緒に、手紙が置いてあったのよ」

 手紙?

「ノートを破った紙切れだったんだけど『届けるのが遅れてすみませんでした』って書いてあったかな」

 先輩がクスクス笑い出す。

「字がいかにも男の子って感じだったから、女の子じゃないんだろうなって思ってたのよ」

 間違いない。

 康輔だ。

 あいつ、字はめちゃくちゃ汚かったもんな。

 漢字の書き順とか、めちゃくちゃだったからなあ。

 なんでもかんでも一筆書きみたいななぞり方で書いちゃってて、逆に良く書けるよなって感心するレベルだったもん。

 でも、康輔がいたことは間違いない。

 あたし以外にも康輔のことを知ってる人がいる。

 あたしは期待を込めて先輩に尋ねた。

「あの、先輩、その手紙って、まだありますか」

 先輩は申し訳なさそうに首を振った。

「ごめんね。とってあったんだけど、なくなっちゃったのよ」

 ああ、やっぱり。

 しかたがないよね。

 ただの紙切れなんだし。

 よほどあたしがガッカリしたように見えたのか、先輩が心配そうにあたしの顔をのぞきこんでいた。

 あたしは無理に笑顔を組み立てて顔を上げた。

「あ、いえ、いいんです。大丈夫です」

「本当にありがとうね。拾ってくれたカレシさんによろしくね」

 カレシ?

「いえ、あの、違う……かな」

「そうなの?」

「でも」とあたしは先輩の目を見て本物の笑顔を見せた。「伝えておきます。必ず」

 先輩もうれしそうに笑みを浮かべてうなずく。

「うん、よろしく。じゃあね」

 右手の指をひらひらと振りながら先輩が参道をもどっていく。

 こちらこそありがとうございます。

 康輔のことを教えてくれて。

 康輔のことを覚えていてくれて。

 康輔に会えたら必ず伝えます。