「中学で仲良くなったむっちゃんって子がいてね。その子がトシヤっていう男子に片思いしてたのよ。私はトシヤと同じ小学校でよく知ってたから、けっこうむっちゃんみたいなのがタイプだろうなって分かってたのよ。だから、励ますつもりで告白してみなよって言ったんだけど、むっちゃんはなかなか決心できなくてさ。で、女子の間ではみんな知ってたから、そのうちトシヤ本人にも話が伝わっちゃってね。それで、別の女子がどうなのって聞いたら、トシヤがべつに本人から言われたわけじゃないし、関係ないなんて言っちゃったものだから、結局だめになっちゃったのよ」

 ああ、まあ、ありそうな話だ。

「そしたら、私が無理にむっちゃんをけしかけて二人の間を裂こうとしてたとかって誤解されちゃってね。なんか、実は私がトシヤを狙ってて邪魔したとか、あることないこと広がっちゃってさ」

「それはひどいね」

「でもまあ、噂なんて無責任なもんじゃん。否定すればするほど、『必死すぎて引くわ』とか言われるし」

 そうか、つらかっただろうね。

「なんか途中からどうでもよくなっちゃってさ。こんな人たちと仲直りしても楽しくないなって感じだったからね」

 今度はあたしがミホを抱きしめてあげる番だ。

 ギュッてしてあげたらミホが吹き出す。

「ヘッドロックかい!」

「ええ、違うよ」

 慣れないことをしたせいで笑われてしまった。

「でも、かさねは優しいね」

「ミホほどじゃないよ」

「でもさ……」とあたしに頭の重さを預けてくる。「話聞いてくれてありがとうね」

「どういたしまして。話してくれてありがとう」

「ほらね」

 何が?

「私だってかさねが必要なんだよ」

 うん、そうだね。

 ありがとう。

 必要としてくれてうれしいよ。

 深まる秋の斜光に照らされてミホの頬が輝いている。

 あたしたちはしばらく本殿脇の石段に腰掛けたまま、まぶしい光に目を細めていた。