……かさね。

 そのときだった。

 ……ねえ、かさね。

 声が聞こえた。

「かさね」

 顔を上げても涙でぼやけて何も見えない。

「かさね、ごめんね。ほら、ふきなよ」

 なんとか立ち上がると、顔に柔らかな布が触れる。

 涙を拭いてもらえばもらうほど涙があふれてきてしまう。

「大丈夫だよ、かさね。私、ここにいるから」

 ミホの声だった。

「ミホ?」

「うん」

 あたしも自分のハンカチを取り出して涙を拭いた。

 ようやくはっきり見えたのはポケットティッシュだった。

 ティッシュを差し出してくれたミホがまっすぐにあたしを見ていた。

「全部使っていいよ。涙だか鼻だか分かんないけど、顔、ぐっしゃぐしゃだよ」

「ありがとう」

 よかった。

 いてくれた。

 ありがとう、ミホ。

 ごめんね、ミホ。

「ごめんね、ミホ」

「泣いている友達のこと、素通りなんてできないよ」

 あたしの友達が優しく頭をなでてくれる。

「ありがとう。ミホは優しいね。ミホまでいなくなったかと思ったよ」

「私のこと探してたでしょ」

「うん」

 ミホがあたしのホッペを両手でグニニと引っ張る。

 え?

 イタタ……。

「素直じゃん」

「うん」

 痛いんだけど。

 でも、いてくれてありがとう。

「追いかけてきてるって分かってたから、途中で人の家の敷地に隠れてた。探偵ごっこかっつうの。アホな高校生だよね」

 なんだ、だから姿が見えなかったのか。

「ミホがいなくなっちゃったから焦っちゃったよ」

「気づかないで通り過ぎちゃって、なんかすごい焦ってるみたいだったからちょっといい気味かなとは思ってたけどさ、あんまりいじめたらいけないじゃん。だから『ドッキリ大成功』って出て行こうとしたら、マジ泣きしちゃってるし、どうしようかと思ったよ」

「ひどいよ。本気で心配したんだよ」

「ごめん、ごめん」

「なんかホッペつねられ損じゃん」

「ばれたか、えへへ」

 と言いつつ、手を離してくれない。