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 その日、結局ミホとはそれっきり話をしなかった。

 ちゃんと謝ろうと思ったけど、久しぶりの登校ということもあって、先生に呼ばれて体の具合を聞かれたり、たまっていた課題の指示を受けたりしなければならなかった。

 でも、それはいそがしさを言い訳にしているだけだった。

 同じクラスでいつでも話しかけられる距離にいるんだから、まわりの目とかいろんなことを気にしないで素直に謝ってしまえばいい。

 スマホだってある。

 スルーされるかもしれないけど。

 でも、それはそれでしょうがない。

 だって悪いのはあたしなんだから。

 自分でもそれが分かっていた。

 とにかく言わなくちゃ始まらない。

 本当に大事なことは一番後回しにしてしまう。

 焦りと自己嫌悪でますます身動きがとれなくなってしまうのだ。

 甘え癖を直さなくちゃと思うだけで、何の行動も起こせない。

 あたしはあたしだ。

 いつまでも変われないんだ。

 放課後、ミホは一人で教室を出て行ってしまった。

 追いかければいいだけだ。

 追いかけてちゃんと謝ればいいんだ。

 それをしないあたしが悪い。

 だけど、あたしは踏み出すことができなかった。

 ミホの背中を見ていると脚が凍りついたように動かなくなってしまうのだった。

 心臓の鼓動が早くなる。

 まただ。

 乗り物酔いのような症状で冷や汗があふれ出てくる。

「どうしたの? 具合悪い?」

 同級生が声をかけてくれる。

「ううん。大丈夫よ。なんともない」

「無理しないでね」

「うん、ありがとう」

 言える。

 言えるじゃん。

 どうしてこんなに気軽に言えるのに、ミホには言えないんだろう。

 言わなくちゃ。

 言えるんだから、今言わなくちゃ。

 後回しにしてたら、言えなくなってしまう。

 そうやって康輔にだって気持ちを伝えることができなかったんだよね。

 また同じ失敗をして大切なものをなくしちゃうつもりなの?

 急がなきゃ。

 あたしは教室を出てミホを追いかけた。