手をはたきながらミホが微笑む。

「体重はオーケーかも知れないけど、イケメンを捕まえるのが無理。うちらの学校、イケメン絶滅区域だから」

「悲しいこと言わないでよ」

「それが運命ってものさ」と、ミホが片目をつむりながら決めゼリフっぽく言う。

 あたしは思わず吹き出してしまった。

「さっきからそのしゃべり方、イケメン設定?」

「どこにもいないから、セルフサービスになっております」とミホが笑う。

「じゃあ、お皿を返しに行くのくらいは手伝ってあげるよ」

「かさねの返しって、たまに意味が分からないよね」

「返しだけに?」

 ミホのおでこが赤くなる。

「うわ、気がつかなかった。めっちゃ恥ずかしい」

 浮き出た汗をペタペタとぬぐっているミホを眺めながら、あたしはふと、康輔だったら支えてくれたかなと思った。

 無理矢理背中に飛び乗ったら怒るかな。

 猫背の背中に頭を乗っけて『康輔大好き』って言ったら許してくれるかな。

 想像の中の康輔は返事をしてくれない。

 こちらを向いてくれることのない丸い背中に向かってあたしは何度も問いかけていた。

 ミホが手で顔をあおぎながらスマホを見た。

「おっと、学校行かなくちゃね」

「うん、そうだね。久しぶりなのに、遅刻したらまずいよね」

 あたしたちは神社を出て学校に向かった。

「そういえばさ、この前の実習でね……」

 歩きながら、休んでいる間に学校で起きたことをミホが教えてくれた。

 みじん切り千本ノックから、クレーム・ブリュレ黒こげ事件と、ころころ話題が移っていく。

 久しぶりの、いつもの調子だ。

 ここにはいつもの日常がある。

 でも、康輔だけがいない日常だ。

 友達の話にうなずきながらあたしは康輔のことを考えていた。

 今のこの状況が理解できない。

 康輔はいなくなってしまったの?

 康輔なんて、元からいなかったの?

 あたしの妄想だったの?

 そんなはずはないよね。

 ずっと康輔と一緒だったじゃん。

 あんなに完璧な妄想を思いつくほどあたし頭良くないし。

 三年分もずっと夢を見ていたの?

 そんなはずないよ。

 でも、だとすればやっぱり康輔はいなくなってしまったことになる。

 もう一度ミホに確かめたいけど、あたしがどうかしてしまったんじゃないかと心配させてしまうだろうから、それはできない。

 もう何度同じことを繰り返して、元の場所に戻ってきてしまったんだろうか。

 ミホの話にぼんやりと相づちをうっているうちに、学校に着いてしまった。