冷静に神社の様子を眺めている自分が他人のように思える。

 なんだかドローン撮影されたドラマのセットを見ているみたいだ。

 鳥居がなくなっていて、康輔にそっくりだった左側の狛犬もブルーシートで覆われている。

 右側のだけは無傷で残っていた。

 勾玉様のゆるキャラが描かれていた七五三予約の看板もバラバラになって境内の片隅に積み上げられている。

 ひどい状態なのに、自分が巻き込まれた事故だという実感は意外とわいてこなかった。

 病院でお父さんから事故の話を聞いたときもそうだった。

 あまりにもショックが大きすぎて、現実として受け止めきれないのかもしれない。

「ねえ、ミホ、狛犬も壊れちゃったの?」

「うん、そうだよ。車は本殿の手前まで行っちゃってたんだって」

 そうか、そんなにひどかったのか。

 でも、あの最後の瞬間の記憶はある。

 康輔があたしに向かって腕を伸ばしてくれたこと。

 今思えば、あれはあたしを守ろうとしてくれていたんだ。

 だからおそらくあたしはひどい怪我をしなくてすんだんだろう。

『何かにくるまれていたみたいに』というのはそういうことなんだろう。

 でも、じゃあ、なおさら康輔はどうしたの?

 康輔がいなかったら、あたし、死んでたんだよね。

 康輔のおかげで助かったんだよね。

 だったら、康輔がいないのはおかしいじゃない。

 いない人に助けてもらったって、なんだか意味分かんないよ。

 どこかに絶対いるはずだよね。

 だとしたら、いったいどこにいるの?

 考え込んでしまっていたせいで、ミホがまた心配していた。

「大丈夫? やっぱり見ると怖いんじゃない?」

「ううん。意外となんともないよ」

「よかった。倒れたら背負っていかなくちゃならないかなって心配してたんだから」

「あたし、軽いから平気だよ」

「どれ、背負ってやるよ」とイケメンモードのミホが中腰になる。

 思いっきり背中に体を預けると悲鳴が上がった。

「いや、マジ、ムリムリ」

「ちょっと、ひどーい」とあたしはよけいに体を預けた。

「いや、マジで無理だって、ホントホント」とミホが笑い出す。

 そりゃそうだよね。

 高校生だもん。

 幼稚園の子供じゃないんだし。

 ふと、自分が情けなくなる。

 心は幼いまま体だけ大きくなっちゃったのかな。

 もっとしっかりしなくちゃな。

 あたしは起き上がってミホに手を貸してあげた。

「ごめんごめん。調子に乗っちゃった」

「まあ、いいってことよ」とミホも調子を合わせて立ち上がる。

「ミホがイケメンだったら良かったのに」

「いやいや、イケメンでも持ち上げられないって」

「あ、それ、マジでひどいじゃん」

「いやでもさ、お姫様抱っことかって、どんだけマッチョじゃないとできないんだろうね。うちらには無理じゃん」

「え、持ち上げてもらうのが? あたしはそんなにポッチャリさんじゃないよ」

 康輔にはペタンコだってからかわれてたし。

 でも、今はその話題を出しても、また『誰?』って言われちゃうんだろうな。