「どうしたの?」

 信号待ちでお母さんがミラー越しにあたしを見ていた。

「え? どうかした?」

「なんか笑ってるから」

 ……言えないよ。

 言えるわけないじゃん。

 康輔のこと考えてたなんて言えるわけない。

「久しぶりに帰れるから」

 無難な返事でごまかすと、お母さんは微笑んでくれた。

 ウソではないけど、ちょっぴり後ろめたさはある。

 うまくいったらちゃんと報告するからね。

 あたし、カレシができました、なんてね。

 よし、やるぞ。

 あたし、頑張る。

 新しい西谷かさね、誕生の瞬間だ。

 家に着いて、アプリの連絡先が更新されると、たまっていた二週間分のメッセージが続々と入ってきて、不機嫌なおじさんみたいにスマホがうなりっぱなしだった。

 ミホからは早速、『退院おめでとう』と入っていた。

 でも、どういうわけか、康輔がいなかった。

 何度見ても連絡先もメッセージも戻ってこない。

 なんだろう。

 あいつのスマホも壊れたのかな。

 あたしは事故のニュースを検索してみた。

 通信社の速報や、全国紙の記事、それにスポーツ紙まで、いろいろなニュース記事が見つかった。

『また高齢運転者の事故』

『高校生が重体。軽傷者数名』

 これはあたしのことか。

 でも、こうやって新聞記事になっていると、どこか他の誰かのことみたいな感じがする。

『心臓の持病で通院中。来月八十歳の誕生日を区切りに免許返納を。周囲に話していた矢先の事故。家族の後悔』

 高齢者の事故というだけでなく、突っ込んだ先が神社という点が話題の中心になっているようだった。

 確かに、鳥居をなぎ倒してグシャグシャになった車の写真はインパクトがある。

 あたしの名前が載っている記事もあった。

 でも、どこにも康輔のことは書かれていなかった。

 軽傷者の中にいたのかな。

 運転していたおじいさんは気の毒だったけど、巻きこまれた被害者の中に死者はいなかったというその事実だけが唯一の救いだった。

 でもじゃあ、どうして康輔と連絡がつかないんだろう。

 ミホのあの当惑した表情もなんだったんだろう。

 明日から学校へ行けば会えるかな。