ミホが帰った後、あたしは自分のスマホを見ようとした。

 ふだん、あれだけ触っていたのに、痛みや吐き気でそれどころではなかったから、すっかり忘れていた。

 でも、病室にはないようだった。

 お母さんが来てくれたときに尋ねたら、返ってきたのはため息だった。

 事故の時に壊れてしまったんだそうだ。

 お父さん風に言えば、あたしの代わりに壊れてくれたということなんだろう。

 こんなことになるなんて思ってなかったからバックアップはとっていなかった。

 写真とかアプリのデータは全部消えちゃったことになる。

 消えてしまうと、あんなにいらないと思っていたつまらない写真がとても貴重な物に思えてくる。

 なんだか本当に身代わりとして、今までの自分まで消えてしまったような気がして、あたしも思わずため息をついてしまった。

「退院したら、新しいの買ってあげるからね」

 お母さんのせいじゃないのに、心配させてしまって申し訳ない。

 退院の日に、お母さんが車で迎えに来てくれて、そのままスマホを買いに行った。

 機種を指定してお父さんに予約しておいてもらったから手続きはすぐに済んだ。

 車の中でアプリの設定をしようと思ったけど、酔いそうだったからやめた。

 前は乗り物酔いなんてしなかったんだけど、やっぱり軽くめまいがする。

「家でゆっくりやりなさいよ」

「うん、そうする」

 あたしの素直な返事にお母さんも戸惑っているようだった。

 いつも、そんなにわがままだったのかな、あたし。

 すごく恥ずかしい。

 直さなくちゃね。

 いろんな人に寄りかかりすぎて、ひねくれすぎてて、あたしってすごく面倒な人間だったんだな。

 もっと大人にならなくちゃ。

 今度こそ、康輔にも謝ろう。

 ごめんなさい。

 それに、ちゃんと感謝の気持ちも伝えよう。

 いつもいろいろありがとう。

 一番大事な素直な気持ちもちゃんと言おう。

 あのね。

 あたし、康輔のこと好きだから。

 笑うかな。

 マジだってば。

 冗談だろとかって、言われちゃうかな。

 ううん。

 信じてくれるまで何度でも言おう。

 ずっと好きだったよ。

 いつも一緒にいてくれてありがとう。

 今度こそ、ちゃんと言うんだ。

 好きなんだってば。

 あいつ、びっくりするかな。

 うそこけ、とか言われたらどうしよう。

 信じるまでぎゅって抱きついてやるか。

 ケンカになるかな。

 コクったとたんに別れたりして。

 冗談のつもりなのに、なんだか心が震え出す。

 まずいまずい。

 勇気を出しなよ。

 大丈夫だって、うまくいくから。

 言える。

 あたし、ちゃんと言える……よね。