「あのさ、かさね」と、ようやく言葉を絞り出してミホが顔を上げた。

 まるで腹話術の人形みたいに不自然な口の動かし方だった。

「ごめんね。本当に何のことだか分からないよ。気を悪くしないでほしいんだけど、事故で頭を打ったからまだ調子が戻ってないんじゃないかな。夢とかと混ざっちゃってるのかもよ」

 夢?

 何言ってるのよ。

 でも、ミホはものすごく真剣な目であたしを見ている。

 あたしに疑われていることに対して責任を感じている表情だった。

 友達を追いつめて迷惑をかけてはいけない。

 あたしは頬の筋肉を無理に引き上げて笑顔を向けた。

「夢かあ。まだ自分が思ってるほど本調子じゃないのかも。アハハ」

「ごめんね。嘘はついてないし、隠し事もしてないよ。マジで」

 こっちこそごめん。

 ミホはあたしに対してはいつもちゃんと向き合ってくれてたよね。

 大事な友達って言ってくれたんだもんね。

 本当はあたしが疑っていることもちゃんと分かっていて、あたしがミホに対して気をつかわせないように無理に笑ったところで、そんなこともお見通しだよね。

 だけど、だからこそ、何もなかった演技をしなければならないんだ。

 あたしが康輔にしていたのと同じように。

 そんなことを考えていたら、ミホがぽつりとつぶやいた。

「本当に分からなくてごめんね」

 あたしはなるべく明るい声で答えた。

「ううん。なんかめちゃくちゃリアルな夢だったからさ。麻酔とかのせいだったのかな。麻薬だったりしてね。アハハ」

 不謹慎ネタまで総動員してなんとかその場をごまかすしかなかった。

 でも頑張ったおかげで、ミホもようやく笑ってくれた。

「ねえ、夢に出てきた男の子って、イケメンだった?」

「ううん。そうでもない」

「そっか」とミホは曖昧な笑みを浮かべながら両手であたしの手を包んでくれた。

 じんわりとしみこむように優しさが伝わる。

「ミホの方がイケメンだよ」

「だろ? 惚れるなよ」と、急なフリにもしっかりと芸人魂を発揮してくれる。

 ほんと、ミホはイケメンだよ。