点滴に入っている薬のせいかあたしはまたいつの間にか眠っていて、次に目覚めたときは連絡が行ったらしく、枕元にお母さんとお父さんがいた。

「よかった。かさね、よかったね」

 泣いているお母さんを見たのは初めてだ。

「三日も意識が戻らなくて心配したわよ。体は擦り傷くらいでほとんどなんともなかったのにね」

 勾玉神社の境内に高齢者の運転する車が突っ込んで、あたしは後ろから跳ねられたらしい。

「警察でドライブレコーダーを調べたらね、運転していたお爺さん、ぶつかる前にもうハンドルを握ったまま心臓発作で亡くなってたらしいのよ」

 そうだったのか。

 お父さんも興奮気味だった。

「自動ブレーキはついてなかったんだってよ。アクセルペダルに体重がかかっててかなりスピードが出てたってさ。あんなすごい事故だったのに、まるで何かにくるまれていたみたいに無傷だったんだよ。映画のスタントマンみたいだよな」

「ちょっと、お父さん、何言ってんの」と、お母さんが横であきれている。

「でも、無事で良かったよな。おまえの身代わりに神社が壊れてくれたんだろうさ」

 そんなことないんじゃないの。

 お母さんまで渋い顔をしている。

「もう、お父さん、黙って。なんてこと言ってるの」

 まあ、これもお父さんなりの励ましなんだろう。

 あたしにしても、自分に起きた出来事なのに、誰か別の人のことを聞いているみたいで、感想や感情がまったく湧いてこない。

 それから二週間入院して、いろいろな検査をしたり、立ち上がって歩く練習をした。

 脳内は最初は異常が見つからなくても、少し時間がたってから何かが出てくることもあるらしい。

 幸いなことに、特に脳内出血などもなく、初めのうちはひどかっためまいも何日かするうちに収まっていった。

 リカバリー・ルームから四人部屋の一般病室に移った頃、一度ミホがお見舞いに来てくれた。

 恥ずかしそうに菓子折を差し出す。

 ミホの家『御蔵屋』の名物和菓子『御蔵最中(みくらもなか)』の詰め合わせだ。

「本当はケーキの方がいいでしょ。ごめんね。うちのおばあちゃんが持ってけっていうからさ」

 実はあたしは『御蔵屋』のお菓子を食べたことがほとんどない。

 笹倉城に来た観光客が必ず買っていく定番商品だけど、地元の人はわざわざ買わないのだ。

 小さい頃に、どこかからのもらい物をおばあちゃんと食べた記憶がかすかにある程度で、味は全然覚えていない。

「ありがとう。食欲はあるから、遠慮なくいただくよ」

 私の言葉に安心したのか、ミホが微笑みながら箱を開けて中を見せてくれた。