目を開けるとそこには白い天井が広がっていた。

 真っ黒だった世界に光が戻ってきたらしい。

 天井両側の壁も白い。

 明るい光の差し込む窓が頭の方にあって、脚の方はカーテンで仕切られている。

 天井と壁の区切り目がうっすらと直線になっているのを目で追う。

 顔を動かそうとするのに、目を動かすのがやっとだ。

 首が痛いし、頭全体も弱いゴムバンドで縛られているみたいに鈍い感覚に包まれている。

 自分の体が空気の抜けた浮き輪みたいでなんだか変だ。

 筋肉の動かし方を忘れてしまったみたいで、手がイカのお刺身みたいだ。

 あたしはベッドに横たわっているらしい。

 腕には点滴のチューブがつながっている。

 ……病院か。

 あたし、どうしたんだろう?

 なんかの病気だったっけ?

 手術でもしたのかな。

 体中が痛いから怪我かな?

 そういえば、なんか変な夢を見ていたような気がする。

 誰かに抱きしめられていたんだったっけ。

 よく思い出せないし、思い出そうとすると頭が痛くなる。

 あたしは考えるのをやめた。

 この部屋は耳がおかしくなったのかと思うくらい静かだ。

 でも、少しだけ手を動かすと布団のこすれ合う音がする。

 咳払いをすると、静かな病室に思ったよりも響いた。

 耳は大丈夫らしい。

 脚の方で自動ドアの開く機械音がして、誰かの足音が近づいてくる。

 カーテンが開く。

「あら、目が覚めましたか。今点滴交換しますからね」

 看護師さんらしい。

 ベッド脇の電子機器をなにやらいじっている。

 ピッピッピというはっきりとした電子音が、夢ではないんだよと教えてくれているみたいだ。

 そちらに顔を向けようとすると頭に激痛が走って、急に吐き気がこみ上げてきた。

 あたしの表情を見て看護師さんが優しく声をかけてくれる。

「まだあまり動かない方がいいですよ。平衡感覚がおかしくなってるかもしれないから」

「あたし、どうしたんですか」

「交通事故でね。三日間ずっと眠ってたのよ」

 看護師さんの説明によれば、あたしは車の暴走事故に巻きこまれて、意識不明で搬送されたそうだ。

 ただ、骨折などの大きな怪我はなく、CTやMRIの検査で脳にも異常は見つからなかったらしい。

「事故のショックで意識を失っていたんでしょうけど、目が覚めたから、あとは体力が回復するまでゆっくり静養していればいいのよ。打撲で痛みは残ってるでしょうから、リハビリとかは焦らなくても大丈夫ですからね」