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笹倉市は千葉県北部の印旛沼のほとりにある地方都市だ。
あたしたちの通う笹倉北高校は江戸の雰囲気を残す城下町の片隅にある。
最寄りの笹倉駅は薄井駅からほんの一駅だ。
いつもの電車のいつもの車両に乗り込む。
朝の下り電車だけど、この路線は高校生だけじゃなく、空港に勤める大人も利用するから結構混雑している。
あたしたちはいつもドアのところで向かい合わせに立って印旛沼を眺めながら通学している。
沼のほとりには本格的なオランダ式風車がある。
春にはチューリップ祭り、夏には花火大会が開催されて訪問者も多い観光名所だ。
でも、背景が日本の里山だからか、どうしても違和感をぬぐいきれない。
目の前に立つ康輔が窓の外を眺めながらカバみたいに大きな口を開けてあくびをした。
「歯、磨いてきた?」
「顔は洗った」
毎朝同じ電車で通っているけど、べつにつきあってるとかそういう関係ではない。
地元の同じ中学出身。
ただそれだけだ。
今さら電車の中で盛り上がるような会話のネタがあるわけでもない。
変化とか結末を避けながらダラダラと続けること自体が目的になっちゃってるんだと思う。
永遠に続くババ抜きみたいな関係だ。
二人でやってるからどれがジョーカーなのかお見通しだけど、そのくだらなさが楽しくて、わざわざカードをシャッフルしたり、どちらにしようかな、なんて呪文を唱えることはしない。
あくびをしながら淡々とカードを引き続けるのが暗黙のルールなのだ。
台地のふちをめぐるようにゆるくカーブした線路を、電車が軽快なリズムを刻みながら進んでいく。
千葉県には山がないせいで、千葉県出身者は絵の背景に山を描かないっていうのは有名なアルアルだけど、そのわりに実はやたらと丘と坂道が多い。
山がないのに坂があるなんてナゾナゾみたいだけど、べつにそんなに不思議でもない。
千葉県の土地は全体的に小高い台地になっていて、川で削られて谷がいりくんでいる。
だから階段状の丘が多いのだ。