そのときだった。

「かさねっ!」

 え?

 呼んだ?

 顔を上げると、大きく目を見開いた康輔が腕を伸ばしてあたしを抱きしめようとしていた。

 え、何よ急に……。

 またあのときみたいに微妙な雰囲気になるのは嫌だよ。

 せっかく決心したのに。

 振りほどこうと身構えたとき、衝撃で体が弾き飛ばされたような気がした。

 パチン!

 まるでスイッチが切られたようだった。

 プツン!

 プシュン……。

 康輔と一緒にいた時間。

 康輔と一緒にいた場所。

 何が起きたのか分からなかった。

 キラキラとまぶしかった照明を突然消されてしまったみたいに、康輔と一緒に見ていた世界が、一瞬で暗闇と静寂に覆われてしまったのだ。

 康輔?

 ねえ、コースケ?

 どこにいるの?

 返事はない。

 何もない、誰もいない世界に突然放り込まれてしまったあたし。

 そこにあるのは、ぬくもりだけだった。

 誰かがあたしをしっかりと抱きしめてくれている。

 だけど、あたしにはもうそれが誰なのか分からなかった。