あたしはあきらめて康輔の手を取って引っ張った。

「もう、いいよ、はやくお参りしようよ」

 おう、と巨大な上半身を揺らしながら康輔がついてきた。

 本殿前に来たところで手を離して並んで立つ。

 お賽銭箱の前で財布を取り出しながら康輔があたしの方を向いた。

「いくら入れるんだ?」

「諭吉さんに決まってるじゃん」

 うそこけ、と笑いながら十円玉を出す。

「ふつうはご縁がありますようにって、五円玉じゃないの?」

「五円玉なんてないぜ。いいだろ、安いより。それにさ……」と急に声が小さくなる。「ご縁ならもうあるし」

 ずるいよ。

 そういうところがずるいんだよ。

「ご縁が二つで十円とか? 二股狙い?」

 本殿前でバチ当たりなケンカが始まる。

「おい、ちょっと待てよ。俺が浮気とか二股とか、そんな贅沢なことできるわけないだろ。ブサイク、バカ、ビンボーの三Bセーサクだぜ」

「不器用だし」

「四Bかよ」と康輔が吹き出す。

「鉛筆だったら、めっちゃ濃く書けるね」

「あれさ、小指の横が黒くなるんだよな」と笑いながら、ぼそりとつぶやく。「そもそも一人目だっているんだかなんだかわかんねえのによ」

 いるじゃん。

 ここに。

 目の前に。

 康輔だって、ついさっき、ご縁ならもうあるって言ってたくせに。

 いいよ、あたしが言うよ。

 あたしから言えばいいんでしょ。

 でも、まずはお祈りしてからね。

 あたしと康輔は二人並んで本殿に向かって手を合わせた。

(本当の気持ちを伝えても、今のこの楽しい時間が消えてなくなりませんように)

 一言付け加えておかなくちゃ。

(勾玉様、餃子みたいだって笑ってすみませんでした)

 目を開けると、横で康輔があたしを見ていた。

「ずいぶん熱心にお祈りしてたな」

「だって、大事なことなんだもん」

「わかるぜ」と康輔がにやける。

 どうして?

 やっぱりばれてたの?