「帰ろうぜ」と康輔が歩き出そうとした。

 あたしは制服の袖を引っ張った。

「ねえ、お参りしていこうよ」

「なんでよ。いつも通ってるけど、そんなのしたことなかったじゃんか」

「いつもは狛犬に挨拶して終わりだったからでしょ」

 しょうがねえなと言いつつ、康輔も本殿に向かって歩き出す。

 あたしは康輔を引き留めた。

「ねえ、じゃんけんで勝った分だけ進めるゲームやろうよ」

 ガキの遊びかよ、と文句を言いつつ構えるところが康輔のいいところだ。

「ジャンケンポン!」

 あたしがパーで康輔がチョキ。

「チョ・コ・レー・ト」

 四歩先で康輔が振り向く。

 二回戦はあたしがチョキで康輔がパー。

「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」

 思いっきり歩幅を広げて前へ出る。

 参道がトランポリンになったみたいだ。

 次は康輔がパーであたしがグー。

「パ・イ・ナ・ポ・ウ」

 少しだけあたしの前に出た康輔が不思議そうな顔で振り向く。

「あんまり差がつかないな」

 そりゃそうだよ。

 カタカナ弱すぎでしょ。

「いいから、ほら、次」

 今度はあたしがパーで康輔がグーだ。

「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」

 足取りも軽く、康輔を追い抜く。

 振り向くと、だいぶ差がついていた。

「なんだよ、おまえすごいな。俺、足短いのか?」

「そんなことないよ」と言いながら、次の勝負はグーであいこだった。

 ジャンケンポン!

 またグーであいこだ。

 康輔がニヤリと笑みを浮かべた。

 次もグーだ。

 その次もグーだ。

 こうなったら二人とも退かない。

 グー、グー、グーだ。

 ババ抜きもジャンケンも、あたしたちの間では勝負なんかつかない。

 それがお約束なんだから。