でも、ようやくあたしが口にできたのは、全然違う言葉だった。

「定期は渡せたの?」

 ああ、と康輔がうなずく。

「さっき下駄箱の中に入れてきた」

 はあ?

 ラブレターかっつうの。

「なによ、昼休みに行かなかったの?」

 おう、と猫背をもっと丸めながら頭をかいている。

「しょうがねえじゃん。二年のクラスになんか行けねえよ」

「ヘタレだね」

「おまえが一緒に来てくれないからいけないんだろうよ。ていうかさ、おまえに頼めば良かったよな。女子同士なんだし」

「なんでよ」

「だってよ、相手の人、美人だって噂だろ。二年の先輩達に下心持ってるんじゃねえかなんて目をつけられたら面倒じゃんか」

「あるんじゃないの?」

「何が」

「下心」

 ねえよ、と康輔が右肩をぴくりとさせながら笑った。

 そっか。

 そうなんだ。

 馬鹿みたいだな、あたし。

 一人でやきもきして。

「だいたいよ、俺みたいなブサイク、相手にされないだろ」

 そんなことないよ。

 ここにいるよ。

 康輔のことが大好きなかわいい女子。

 自分で自分のことをかわいいなんて言っちゃって、メッチャ恥ずかしい。

 顔が熱くなって、それもまた康輔に誤解されたりしないかと動揺してしまう。

 でも、やっぱり康輔は康輔だった。

 全然気づいてないみたいに、康輔が左側の狛犬様の鼻をなでている。

「まあ、この狛犬よりはましな顔だけどな」

「そんなこと言ったらバチが当たるんじゃないの?」

「大丈夫だろ」

 あたしはスマホを取り出した。

「ねえ、このアプリで判定して見ようよ」

 顔を重ね合わせて似ているかどうかと判定するアプリだ。

 ミホはイケメン俳優とのマッチング率が八十%だったっけ。