早くも傾いた秋の日差しの中で、あたしは一人、康輔を待った。

 まだ知らない新しい世界。

 康輔と一緒にそれを見てみたい。

 今までとは違う、新しいあたしたちの時間。

 康輔と一緒にそれを過ごしてみたい。

 嘘いつわりのない本当の気持ち。

 康輔と一緒にそれを分かち合いたい。

 だから、あたしは言うんだ。

 自分の正直な気持ちをあいつに知ってもらうんだ。

 でも、なんて言ったらいいんだろう。

 いきなり、好きでいいのかな。

 あたしは狛犬に向かって、心の中で練習してみた。

 好きだよ。

 ずっと好きだったよ。

 もちろん狛犬は何も言ってくれない。

 何か言ってよ。

 言うわけないか。

 頭の上の方で鳥の鳴き声がする。

 グゲーというひどいダミ声だ。

 まさか、これが返事じゃないですよね。

 境内のあちこちでギッギッ、グエッグエッと呼応しはじめる。

 なんていう鳥なのか知らないけど、これから大事なところなんだから邪魔しないでくださいよ。

 ふと、狛犬のつぶれた鼻が気になる。

 あいつの鼻がつぶれてるのって、あたしのせいなのかな?

 あたしにぶつかったからかな。

 違うよね。

 最初からああいう顔だったもんね。

 ……最初?

 そういえば、あいつと初めて話したことって……。

 たしか……。

「なんだよ、おまえ、ここにいたのかよ」

 急に声をかけられて頭の中が真っ白になる。

 振り向くと康輔がいた。

「な、なによ、突然現れないでよ」

 告白練習の途中だったからついあわててしまった。

「なんだよ、何してたんだよ」

「べ、べつに、ただミホと一緒にいただけよ」

「いねえじゃん。先に帰っちゃったのか」と康輔はあたりを見回した。

 ほら、言うんでしょ。

 どうして言わないのよ。

 ……だめだ。

 弱気な自分が顔を出す。

 だめだよ。

 言わなくちゃ。

 ミホと約束したんだから。