魔法使いミホが後ろに回って頭をなでてくれる。

「素直になれないかさねちゃんにおまじないを授けましょう」

 あたしの大事な友達はいつも優しく背中を押してくれる。

 ていうか、髪の毛わしゃわしゃしてるでしょ。

 あたしはしばらくミホにもてあそばれるままに、優しさにもたれかかっていた。

 もわもわに荒れた髪を今度は整えてくれる。

「かわいいぜ、かさね」と急に声が変わった。

 元々低めの声だからか、話し方を変えるだけで男っぽくなる。

「イケメンだね、ミホは」

「だろ。あんなやつ忘れて、オレとつきあえよ」

「うん、そうする」

 ちゃうだろ、と背中に心地よいツッコミが入る。

 ホント、ミホがカレシだったら楽だったのにな。

 身も心も安心してゆだねちゃうよ。

 溺れちゃうかも。

 まあ、楽をするためにカレシがいるわけじゃないか。

 そんなことを考えているうちに勾玉神社まで来てしまった。

 鳥居の前でお別れかと思ったら、ミホが境内に入っていく。

 康輔そっくりな狛犬の前で立ち止まる。

 あらためて二人で向き合うと、何をしゃべったらいいか分からない。

 ふと、あらためて気づく。

 あたし、今日一日ずっと康輔のことばっかり考えていたんだな。

 先に話を切りだしたのはミホだった。

「ねえ、かさね」

 ん?

「本当の気持ちを確かめ合えるって、大切なことだと思うよ。私、かさねのこと応援してるよ。大事な友達だと思ってるから」

「ありがとう」

「言っておいてなんだけど、やっぱ、『大事な友達』とかって、あらためて口にすると照れくさいね」とあたしの大事な友達がはにかむ。

「でしょ、でしょ。だよね」

「でも、言うとスッキリするよ。言った私が保証する」と、満面の笑みをたたえたミホがあたしを見つめている。

 そっか。

 あたしも頑張ろう。

「ありがと、ミホ」

 なんか、ミホの顔がにじんで見える。

「泣くなよ、私の前では」

 うん、とうなずくと涙が垂れてしまう。

「ねえ、ミホ……」

「ん、なあに?」

「あたしさ、素直になりたいんだ」

 大切な友達があたしを見てくれている。

 頑張れ、と目で語っている。

「あたし今日絶対言うから」

 うん、と今度はミホが無口になる。

 ハンカチであたしの頬を拭いてくれる。

「極上のかさねを見せなくちゃ」

 うん、ありがとう。

「約束するからね」

「報告待ってるよ」と、ミホが帰っていった。