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午前中いっぱいかかった実技試験が終わって教室に戻ってきたとき、康輔からスマホにメッセージが入っていた。
『昼休み、二年生の教室につきあってくれよ』
まだ届けに行ってないのか、あいつ。
『ムリ』
それっきり返信は来なかった。
昼休みはミホと一緒に自分の教室にいた。
ぼんやりとスマホの画面を眺めていたら、「行かなくていいの?」とミホに心配されてしまった。
「初めてのお使いじゃないんだから、一人で行けるでしょ」
そう、とうなずいて、ミホもスマホをいじり始めた。
正直、どうしていいのか分からなかった。
康輔のことばかり考えていたけど、なんだかそれが嫌だった。
ふだんはこんなことはない。
一緒に登下校するときくらいしか、あいつのことなんか考えない。
なのに、今日はずっと康輔のことばかり考えていた。
朝、ミホに言われたことも何度も頭に浮かんでは消えていった。
四月に桜の花を見ながら、あたしはどんな話をしたんだったっけ。
あのとき康輔のことをミホに話したなんて、そのことすら全然覚えていない。
目の前でスマホをいじっているミホに聞いてみればすむことだけど、思い出せないのが悔しいから頑張って記憶をたどろうとしていた。
でも、あたし、康輔に劣らず記憶力がないからなあ。
なんだったっけ?
全然思い出せないや。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
あたしが席を立つと、ミホがスマホを見つめたままつぶやいた。
「C組だよ」
え?
顔を上げたミホと目が合う。
「鷹宮先輩、二Cだよ」
「トイレだってば」
いっといれ、とダジャレで送り出される。
ミホはトイレに付き合うことがほとんどない。
そういうところも女子っぽくないけど、あたしはその方が気楽でいい。
おそらく、ミホはあたしのそういう性格も分かっていてそうしているんだろう。
康輔といい、ミホといい、あたしはどうも自分に合わせてもらってばかりいるみたいだ。
甘えてるんだな。
自覚はある。
それでも直せないんだから、もっと悪いな。
トイレを済ませて廊下を歩いていると、自然に足が普通科棟に向いてしまった。
二年C組か。
べつに気になるわけじゃないなんてわざわざ自分に言い訳してるくらい気になってしょうがないんだ。
ごまかそうとすればするほど心配の粒が水を吸った豆のように膨らんでいく。
なら、ちゃんと見届けた方がいい。