そんなあたしが入学式の日に調理科教室の窓から校庭の桜並木を眺めていたら、『ホント、きれいだよね』って声をかけてくれたのがミホだった。

 ハスキーと言うほどではないけどやや落ち着いた声で、ベリーショートの髪型がボーイッシュな雰囲気によく似合っていた。

 くだらない妄想をしていたところだったから、イケメン登場かと動揺して、思わず顔が熱くなってしまった。

 すぐに女子だと気がついたけど、きっと相当変な顔をしてたんだと思う。

 ミホが当惑した表情であやまりだした。

『あ、話しかけてごめんね』

『ううん、ちがうの、こっちこそごめんね』

 ミホが気まずそうにしているから何を考えていたか正直に話したら笑ってくれた。

『イケメンかあ。入る高校間違えちゃったんじゃん。元女子校で男子少ないし、全員バカだし』

『ホントだ』

『気がつかなかったの?』

『だって、しょうがないじゃん。あたしだって、他に行ける高校なかったし。調理科なんてあるの、ここだけだし』

 知り合ったばかりなのに自然と会話が続いた。

『ねえ、ミホはどんな人がタイプ?』

 返ってきたのはあたしも知っているアニメキャラの名前だった。

『へえ、そうなんだ』

『まあ、そういうことにしておいてよ』

 今でこそ、ミホが『そういうことにしておいて』というのはウソか何かを隠しているときだってことは分かっているけど、その時は素直に受け止めていた。

 出会って少しした頃に、『かさねのそういうところがいいなと思ったんだよね』と言われた。

『そういうところって?』

『深く追及しないところ。気まずくならないし、本当にあっさり受け流してくれるじゃん』

 ちょっとため息をつきながらミホが一言付け加えた。

『やたらと絡んでくる子って、メンドクサイじゃん』

 つまり、あたしは『合格』だったというわけだ。

 もしかしたら、康輔にもそう思われてるのかな、なんて思わなくもない。

 そうだとしても、べつにそれで構わない。

 あたしがミホに感じていることだって同じだし。

 そういう割り切りが、まさに『合格』なんだろうな。

 そんな話をしていた春から半年、二人ともカレシはいない。

 ミホとあたしは二人ともペタンコ胸で、入学当初は康輔にからかわれていた。

『おまえら、ほんと、ガッカリ体型だよな』

『ひどいよ、八重樫君のバカ』

 あたしはべつに二人でペタンコ同盟を組んでもいいかと思ってたんだけど、マジ泣きするミホを見て、そんなにまずいのかと焦っちゃったのよね。

 あたしに冗談を言ったときと明らかに反応が違ったから、さすがに康輔もやばいと思ったらしく本気で謝ってたけど、ミホは半年たった今でも康輔の前では目が笑っていない。